現代津軽こぎん刺し作家
貴田洋子
  • こぎん刺し歴35年
  • 日本現代工芸美術協会 本会員
  • 日展入選8回 埼玉県展会員
 
[津軽人(女)-貴田洋子-]             手仕事専科  八田 茂
私の知る津軽こぎん刺しは、縄文に始まる幾何学模様の刺し子です。
その模様をもどこといい、紺地の麻布に生成りの木綿糸で刺します。
 現代津軽こぎん刺し作家 貴田洋子氏が、こぎん刺しの美しさに惹かれたのは、中学生の頃だったといいます。津軽こぎん刺しの美しさは、津軽の名もなき農婦が、野良着を補強する刺し子への美意識が、生活の中に延々と受け継がれて来たものです。彼女は、そのような津軽の女性を万葉集の詠み人知らずの女性に重ねています。津軽女のこぎん刺しは、「刺し人知らず」の作品に重なるのです。
 そんな貴田洋子氏を弘前こぎん研究所の成田貞治氏から、ご紹介いただきました。津軽こぎん刺しは、木綿布を着られなかった時代の東北に生まれた木綿糸の刺繍です。しかし、そのシンプルな文様が表現する紺地に生成りの刺し模様の鮮やかさは、人々の目を惹きつけて離しません。
私の愛する民芸品です。

 ご紹介いただくまで、美術工芸・大作のこぎん刺し作品があることを知りませんでした。
「貴田洋子の世界」の小冊子を頂戴し驚きました。その作品の大きさと緻密なデザイン、色彩と配色、そして、津軽人独特のテーマ(作品名)でした。
棟方志功も津軽人ですが、彼女は、まぎれもない津軽人(女)です。
そして、作品には、たくさんの「鳥」が、刺し描かれていました。
大きな鳥です。
私には、かつて山里で見た空高く飛ぶ大きな角ばった翼の不気味な鳥「ケリ」のイメージがダブりました。
彼女に尋ねると「八咫烏(やたがらす)」だといいます。
八咫烏(やたがらす)とは、古事記や日本書記にでてくる伝説の大きな鳥だといいます。神武東征に勝利を導いた戦勝の鳥として現れます。
 彼女のアトリエに尋ね、いくつかの作品を拝見いたしました。
小冊子の画像から想像する刺し子からは、思いもよらない程に温かい迫力ある作品でした。
一瞬にして、津軽の人々の延々と伝えらてきた想いと情熱に打たれました。
手仕事専科では、津軽こぎん刺しの商品を多くの方々にご紹介しております。この度の出会いから、貴田洋子氏の大作品をご紹介することが、私の宿命・為すべきことだと感じました。
成田貞治氏との出会いは、20年数前に遡りますが、図らずして、骨太の素晴しい作品に出合い、彼女の津軽こぎん刺しに賭ける思いをご紹介することになりました。
                                   -2017.07.01-

●八咫烏のこと